3.デス・レース

第二ラウンドのゴングが鳴った。

管理と蚊トリーヌの耐久レース,一見この勝負はメスであり体力のない蚊トリーヌが不利のように見えた。

しかし,耐久レースも一時間を過ぎる頃,管理の握った拳の血流が滞り,紫に変色してきた。

長時間ずっと筋肉に力を入れ続けるのは,瞬間的に大きな力を出すことよりも疲労が大きい。

対する蚊トリーヌは,初めこそ止まらない血流にとまどっていたが,まだ限界までは余裕がある。

ここでさらに蚊トリーヌが心理戦に出た。

蚊トリーヌ「もうこんなに時間が経ったけど,その噂は本当なのかしら?」

と,蚊トリーヌはどこか影の笑みで問いかけた。

管理「何だと?」

管理の顔に動揺が走った。

蚊トリーヌ「こんな長い時間,血を吸ったのは初めてだけど,まだまだ破裂する気がしないわ。」

蚊トリーヌの言う通りかもしれない。

これ以上長い時間,拳を握り続けるやつがそうそういる方が不思議だ。

その動揺した様子を見て蚊トリーヌはとどめに入った。

蚊トリーヌ「そんな一本ずつ指を開いたところでたいした回復にはならないわよ。」

ハッタリ・・・もあったが,蚊トリーヌの言うことは間違ってはいない。

血流が滞ることは体にとって不健全なことなのは間違いないのだ。

それに,管理の中ではどのくらいの力でなら拘束し続けられるかを知る必要があった。

五本の指全部はおろか,四本ですら先は長くない。

三本の指を握る力だけで拘束させ続けることができるのならば,休める指は二本ずつも可能である。

管理「(イチか・・・バチかだっ!)」

そっと二本だけ指を開こうとした。

しかし,長い時間握っていたせいでうまく力加減の調整ができなかったのだろう。

一瞬,ほんの一瞬だけ完全に筋肉から力が抜けてしまった。

これが普通の蚊なら問題なかっただろう。

しかし,天才と呼ばれる蚊トリーヌはその一瞬を見逃さなかった。

この瞬間のためだけに溜めていた力を一気に解放し,腕から離脱した。

蚊トリーヌ「ふふっ,どうやら私の勝ちのようね。」

管理「あー,やっちまった!」

悔しがる管理,しかしどこかその表情には爽やかな笑顔があった。

全力を尽くして戦えた相手に満足することができたのだ。

管理「次は負けないからな!」

蚊トリーヌ「ふふっ,次も負かせてあげる。」

蚊トリーヌもまた,この戦いに満足感を得ていた。

蚊トリーヌ「(捕まった時,破裂を待たずにティッシュで潰されていたら完全に負けていた。 だけどあえてあの男は真っ向勝負を仕掛けてきたわ・・・)」

蚊トリーヌ「まったく,バカな男ね」

そう言い,去っていく蚊トリーヌを見守り,部屋に殺虫剤をまき散らす管理であった。

破裂,見てみたかったなぁ。と,思いつつ。

おわり







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