1人で寂しい夜は
この健康志向の世の中ですが、皆さんしっかり野菜は食べていますか?
というわけで健康ブームにのっとって今回ご紹介するのはこれですね。
「1人で寂しい夜は・・・野菜の僕が楽しませてあげるよ!」
妙に人参さんがイケメンですが、どんな内容なのでしょうか。
そう、皆さんもうお気づきですね。
これは「野菜ホラー漫画」です。
我々人間、いや、どの生き物も多くはそうですが、何かしらの犠牲の元に食生活を営んでおります。
それはもちろん、我々が生きていくうえで必要な犠牲ではあるのですが、
犠牲にされる側の気持ちはどのようなものでしょうか。
想像してみてください。我々人間が捌かれ、食される様を。
恐ろしいし、決して起こってほしくはないですよね。
それは物言わぬ野菜といえど同じことです。
反抗も許されず、ただひたすらと蹂躙され続ける野菜たち。
しかし確実にたまる怨恨の念は、いつしかいくつかの野菜たちに意思を持たせました。
そして、意思をもった野菜たちは人間への復讐を誓ったのです。
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みち子は大学2年生。人並みに彼氏がいて、普通の大学生活を営んでいる普通の女性である。
趣味は料理。特に健康に気遣って野菜たっぷりの料理が最近のマイブームである。
今晩も、スーパーでたくさんの野菜を買い込み、料理を作って彼氏に披露しようなどと考えていました。
しかし、みち子は気づかなかったのです。
スーパーで買った人参こそ、人間に復讐を目論む意思をもった野菜の1つであったということを・・・。
彼氏のよしおがくる前に料理を用意しなきゃとせっせと支度をするみち子。
天然系の性格の持ち主のみち子は、1人で家にいるときは独り言をつぶやきながら料理する癖があった。
「まな板さん、今日もよろしくね」
「たまねぎさん、良い味をだしてね」
「こっちの緑のピーマンはよしお君用の、赤いのはワタシ用かな?」
なんてかわいく語りかける姿を遠めに、意思のある人参は眺めていた。
復讐を誓ったはずの人間。
しかしこうしてみると我々野菜に感謝の念を持ち、食べてくれているようにみえる。
この子に復讐をするのは止そうかな・・・。
と、人参は少し心が穏やかになろうとしていた。
そうこうするうちに、彼氏のよしおがみち子の家にやってきた。
みち子は自慢の野菜料理を披露するが、よしおはそれに対して
「え?野菜ばっかり?俺、肉くいてーんだけど。」
と、文句をいう。
みち子は泣きそうになりながらも
「や、野菜もおいしいから食べてみて、ね?」
と懇願する。
しかし、よしおは一口食べると、ブッと野菜を吐いて捨てた。
「まっじぃ!変なもの食わせるんじゃねぇ!」
激怒するよしおに思わず謝るみちこ。
「ご、ごめんなさい」
が、続けざまにみち子を押し倒すよしお。
「おままごとしにきたわけじゃねぇんだよ。付き合って1ヶ月経つんだぜ?」
乱暴にみち子の服を脱がそうとするよしお。
恐怖しながらみち子は叫んだ。
「い、いやぁぁ!」
思わずよしおを突き飛ばし、トイレに逃げ込む。
乱暴にドアを叩くよしお。
が、しかし、しばらくすると声がしなくなった。
そーっとトイレのドアを開けてみるも、よしおはそこにはいない。
帰ったのだろうか。不安になりながらもトイレからでるみち子。
外では何か叫び声が聞こえる。事件でもあったのだろうか。
「耳から・・・している・・・!」
よく聞こえないが救急車の走る音もした。
疑問に思いながらもよしおとの関係をこじらせてしまったことに自己嫌悪し、とぼとぼと食卓へ戻る。
1人になってしまった寂しい夜。
2人分用意された野菜料理に1人で箸をつける。
決してまずくはなかった。
みち子の頬を一筋の液体がこぼれた。・・・その時!
「ヒャッホーイ!」
陽気な声がきこえてきた。
「だ、だれ?」
と、あたりを見回すみち子。しかし誰もいない。
「こっちだよこっち!」
と、テーブルの下から声が聞こえる。
テーブルの下をのぞいてみると、そこには1本の人参が二足歩行で立っていた。
「え?え?」
状況が把握できないみち子。しかし人参は続けた。
「お嬢さん、寂しがる必要はないよ。寂しい夜は野菜の僕が楽しませてあげるよ!」
意味がわからない。野菜がしゃべっている?
混乱する頭をなんとか冷静に戻そうとするみち子。
きっと夢だ、そう思おうとするも人参は容赦なくしゃべり続ける。
「あんな最悪な彼氏のこと忘れてさ、俺と一緒に楽しもうよ!」
天然なみち子は、混乱する頭の中で1つの答えを見つけた。
「あぁ、毎日話しかけているから野菜が心をもったんだわ」と。
そうして人参の饒舌なトークで暗い気分がだんだんと晴れていったみち子。
いつの間にか飲みなれない、よしおのために買っておいたビールを飲みながら人参に愚痴っていた。
「よしお君、最初の頃はすごく優しくしてくれてて・・・けど男の人ってみんな体が目的なのね・・・」
すっかり酔っ払ったみち子は人参に愚痴を続ける。
「あんな人、いなくなればいいのに!」
すると人参の口元がニタァ・・・とゆがんだ。
「大丈夫だよ、みち子ちゃんは僕が守るから。」
人参って怖い笑い方をするんだな、とうつろな瞳で人参を眺めるみち子に人参は続けた。
「あの男はもう、殺したから安心して・・・」
え・・・?殺し・・・?
「あんな野菜を粗末にするやつは死んで当然だ!」
どういうこと?そういえばあんなにしつこくトイレのドアを叩いていたよしおがあっさり帰ったのは何故?
その時、部屋のインターフォンがなった。
「みち子つぁん!」
隣に住むおじさんだ。引っ越してきてから親切にしてくれる優しいおじさん。
「あんたぁ、彼氏は無事かね!?みち子ちゃんの彼氏みたいな人が、耳にネギぶっ刺さって表通りで倒れてたみたいだがぁ!」
まさか・・・!?
と、玄関のドアを開けたとき、大量のじゃがいもが宙を舞い、隣のおじさんに直撃した。
「ひ、ひぃぃぃ!」
おじさんはそのまま逃げていった。
振り返ると玄関まで人参がついてきていた。
「半径20m以内にある野菜は僕の意思のままに動くのさ」
人参の顔に暗い影が宿る。
「みち子ちゃんは野菜を敬ってくれたから殺さないよ。さぁ、お話の続きをしようよ・・・」
1歩、また1歩とゆっくり近づいてくる人参。
腰が抜けて立てないみち子。
「ひ、人殺し!こないでぇぇ!!!」
そうみち子が叫んだとたん、人参は不機嫌そうな顔になった。
「みち子ちゃんは僕のことを嫌うのかい・・・?」
その問いかけに答えたわけではないが、
「いやっ!こないでっ!」
と、みち子は叫び続ける。
「キミなら野菜を大事にしてくれるから許せると思ったのに・・・拒絶するんだね・・・」
人参がスッと手をあげると数本のごぼうが矢のようにみち子のほうへと飛んでいった。
とっさに頭をかかえて避けるみち子。
鉄の扉を貫通しつきささるごぼう。
「ひっ・・・」
恐怖で声が引きつるみち子。腰が抜けていたものの、恐怖にまかせて奥の部屋へ走る。
しかし続けざまに飛び込んでくるトマトの大群がみち子にぶつかりはじける。
1つのトマトは顔に当たり、弾けた汁が目に入り、みち子は視界を失った。
視界がみえないままがむしゃらに逃げる。
何か硬いものが飛び掛り、殴るかのように体にぶつかる。
おそらくかぼちゃか何かであろう、大きめの物体に頭を横殴りにされ飛ばされるみち子。
薄気味悪い人参の声が聞こえる。
「とどめは僕が直々にさしてあげよう。」
先ほどのごぼうのように、おそらく人参が飛んでくるのであろう。
いくら人参といえど、ごぼうの威力を考えたらきっと恐ろしい貫通力を持っているはず。
そもそもよしおは、あんなやわらかいネギが貫通していたそうではないか。
何故、こんな目にあわなければいけないのか・・・私が何をしたのか。
そんなことを思うみち子の耳に歯医者のドリルが回るような音が入ってきた。
きっとあの人参が高速で回転しているのだろう。
暗い視界のまま迫り来る恐怖にただただおびえるみち子。
「しねぇぇ!!」
人参の雄たけびが聞こえた・・・が・・・
一向に衝撃はこない。
そういえば歯医者のような音もゆっくりと消えていった。
きゅるるるる・・・
しばらくして手探りで部屋を探索すると、どうやらそこは台所だったようだ。
手探りで水道から水を出し、目に染みるトマトを洗い流すとそこには、
人参が半分ほど刺さったまな板と、床に刺さる包丁、そしてその包丁が切断されたであろう人参の頭の部分がころがっていた。
毎日の調理道具を、みち子は非常に大事に丁寧に扱っていた。
偶然かもしれない、しかし大事にしたものには心が宿る。
もしかしたら偶然かもしれない
が、まな板や包丁がみち子を助けてくれたようにみち子には思えたのであった。
いつの間にか朝がきていたようで、差し込んだ朝日が包丁に反射してまぶしかった。
みち子の長い夜が終わった。
ってな具合にね、野菜だけでなくすべてのものを大切にすることを教えてくれる作品ですね、これは。
えらい長くなってしまったけれど、ものへの大切な気持ちがわかるこの作品、ぜひ皆さんも見てみてはいかがでしょうか。
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